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公開日:
2019.06.14
更新日:
2019.12.28

英語の聞き流し|効果と注意点を第二言語習得研究で明らかに!

「理解できない」英語を聞き流しても全く効果はない。英語の後に日本語訳を聞いて意味を理解したつもりでも、単語や文の構造を理解していないなら同じことだ。第二言語習得研究の知見を総合した結論だ。

しかし、「理解可能な」英語であれば、聞き流してもある程度の効果は期待できる。英語を習得するには「理解可能な」インプット(読む・聞く)を大量に、そして継続的に取り入れることが不可欠なのだ。そのことに反対する言語学者はいない。

聞き流すより集中して聞いた方が高い効果が期待できるのは当たり前だ。また、聞き流すだけでは決して英語は習得できない。科学的な観点から、英語を効率的に習得するための注意点をご紹介する。

1. 英語の聞き流しについての「よくある質問」から始めよう!

質問と答え

「英語を聞き流す」というのは、「あまり集中しないで英語を聞くこと」だ。例えば、歩きながらや部屋で何か別の作業をしながら、時には他のことを考えたりすることもあるが、一生懸命に聞こうとすることもある。そのような状況を「英語を聞き流す」と定義する。

まずは「聞き流し」の効果に関する「よくある質問」と、科学的な見地からの、それらに対する「結論」をご紹介しよう。

1.1. 英語ニュースなどの「聞き流し」は意味がない?!

Question 1

CNNの英語ニュースを聞き流していれば、いつかは聞き取れるようになる?

結論

  • 何を言っているのか「全く」理解できなかったり、時折知っている単語が聞き取れる程度であれば、そのような英語を聞き流しても効果はない。あるとしても英語の音に慣れる程度。英語を習得できるとは到底言えない。
  • 最低でも80%程度理解できれば、繰り返し聞き流すことでリスニングを中心とした英語力の向上にある程度の効果は期待できる。
  • 97%程度以上理解できれば知識を使えるようにする効果がある。また、新しい語彙や文法項目、表現も習得することも可能。4技能の向上にもつながる。繰り返し聞き流せば効果は更に高くなる。

 

1.2. 英語を「聞き流す」教材は効果がない?!

Question 2

英語の後に日本語訳が録音されている「聞き流す」教材は効果があるの?

結論

  • 英語だけを聴いて何を言っているのか「全く」理解できなければ、そのようなものを繰り返し聞き流しても英語を習得することはできない。
  • 英語を聞いた後に日本語訳を聞くことで特定の英語表現を意味と一緒に丸暗記することはできるかもしれないが、それは英語を習得するということとは本質的に異なる。
  • 最低でも80%以上、できれば97%以上、単語や文の構造を理解できる状態にしてから繰り返し聞き流せば効果は期待できる。

 

なお、第二言語習得研究の知見からの根拠は下記でご説明する。第二言語習得研究とは、第二言語(≒外国語)を習得するメカニズムやプロセスの研究、もしくはその研究分野のことだ。

2. 英語習得には「理解可能」な大量のインプットが必要!

リーディングとリスニング

「インプット」とは「読む」ことと「聞く」ことを意味する。英語を習得するには、多くの英語を読み、聞くこと、つまり大量のインプットが必須なのだ。しかし、そのインプットは「理解可能」な英語でなければならない。「理解可能」というのは、その英語に含まれる「単語」「文法」「発音」の言語の基本3要素を理解できることをいう。

第二言語習得研究での常識は、「英語習得に最も大切なことは、「i+1」のレベルの英語を大量にそして継続的に取り入れること」だ。「i+1」の「i」とは自分の現在の英語力を表す。「i+1」とは現在の英語力よりもほんのちょっと上のレベルということを示している。第二言語習得研究の第一人者であり、南カリフォルニア大学名誉教授のスティーヴン・クラッシェン(Stephen D. Krashen)により提唱された考え方だ。

聞き流すこと自体、全く意味がないわけではない。どのような英語素材を使用するかが問題なのだ。適切(理解可能)な素材を使用し、適切な方法で繰り返し行えば、「聞き流し」でも限定的ではあるが効果は期待できる。

3. 英語聞き流しの効果① 単語・文法・発音の知識の「自動化」が可能!

脳

「理解可能」な英語であれば、大量に、そして繰り返し「聞き流す」ことで、単語・文法・発音の知識を無意識的に「自動的」に使えようにすることが可能だ。第二言語習得研究では、知識を自動的に使えるようにすることを「自動化」という。脳科学(神経科学)研究では「エピソード記憶」の「手続き記憶」化と表現する。

日本人は受験英語のおかげで比較的単語力と文法力はある。それでも話せないのはこの「自動化」ができていないからだ。話せない日本人にとってこの「自動化」は最重要課題といってもいい。

3.1. 「聞き流し」で知識を「自動化」して英語の流暢さ向上!

単語と文法と発音の自動化

言語を習得するというのは、単語を覚えて、その並べ方と発音を覚えることしかない。単語の並べ方というのは文法のことだ。要するに、まずは単語・文法・発音の基礎的知識を得なければ何も始まらないのだ。

しかし、それらの3つの知識を得るだけでは英語を流暢に使えるようにはならない。知識の「自動化」が必要なのだ。「自動化」できれば4技能の能力を向上させることができる。適切な英語素材を使用して適切な方法で行えば、聞き流すことでこの「自動化」が可能なのだ。

なお、「自動化」についての詳細は「英語脳の作り方|8つの自動化トレーニングで英語回路を構築しよう!」を参考にしてほしい。また、単語の効率的な覚え方については、「英単語の覚え方:みんな実践中!8つの基本トレーニングと25のコツ」を、文法の勉強方法については、「英文法勉強法|科学的トレーニング法8選と8つの基本的な注意点」を参考にしてほしい。

3.2. 「聞き流し」で「自動化」するには「i」or「i+1」の教材!

ヘッドフォン

明治大学教授の廣森氏は、「自動化」を促進するには「i」や「i+1」の英語素材、つまり自分の英語力と同程度のもの、もしくは若干難しい教材を使用して繰り返し大量にインプットすることを勧めている。

関西学院大学大学院言語学科教授の門田氏によると、「i+1」の英語というのは、知らない単語や文法項目が全体の2〜3%の程度含まれるものとのこと。100個の単語のうち2、3個知らない単語がレベルの英語だ。

そのような容易に理解可能な英語素材を使用すれば聞き流すことでも「自動化」の効果は期待できる。ただし、繰り返すことが必要となる。

4. 英語聞き流しの効果② リスニング力の向上が期待できる!

リスニング

「i+1」よりも難しい英語素材を「聞き流す」ことでリスニング力がアップすると主張しているのは、米ピッツバーグ大学言語学部教授の白井氏だ。

白井氏は「(リスニング力の向上には、)聞いても20%しかわからないような教材を聞くより、80%以上わかる教材を何度も聞いたほうが効果がある」と指摘している。白井氏は、自身でも学生時代にTOEFL受験に向けてCNNの英語ニュースなどの聞き流しを活用してきたことを自身の著書で述べている。

リスニング力を向上させるためには英語の発音に慣れる必要がある。英語の発音は日本人にとって最重要課題だ。単語と文法と同じくらい重要なのにもかかわらず、日本の学校教育ではあまり重要視されてこなかったからだ。

英語には日本語にない発音が多く、日本語にはあまり起こらない「音声変化」や、英語独特の「リズム」や「イントネーション」もある。80%以上理解できる英語素材を繰り返し聞き流すことでこれらに慣れることも可能なのだ。

なお、英語の発音については、まずは「母音」と「子音」を理解することから始めることをお勧めする。詳細は、「英語の発音記号|日本人が苦手な母音と子音を14のコツで矯正しよう」を参考にしてほしい。

5. 英語聞き流しの効果③ よく使用される定型表現を覚えることも可能!

会話する2人

よく使用される定型表現を覚えることは英語を習得する上で重要なことだ。いちいち頭の中で英作文する必要がなくなる。また、ネイティブ・スピーカーにとって自然な表現を使えるようになるにはこの方法しかない。よく使われる表現を「聞き流す」ことによって覚えることは即効性のある学習方法だ。

5.1. 単語と文の構造を理解してから聞き流して定型表現を覚えよう!

よく使用される定型表現を繰り返し聞き流すことで体に染み込ませておき、状況に応じて単語を変えることができれば応用が効く。英語コミュニケーション力を飛躍的にアップすることも可能だ。ただし、状況に応じて単語を変えることができるようになるためには、単語と文法を十分に理解してから聞き流すことが必要となる。

単語の意味も、文の構造も理解せずにただ英文を「音」として丸暗記することはお勧めしない。応用が利かなくなるからだ。応用が利かないというのは、その表現にぴったりと合ったピンポイントの状況でなければ使えないということだ。そのような状況には滅多に遭遇しない。

5.2. 大人は丸暗記の能力が低くなるので子どものように言語は習得できない!

注意点を指摘しておこう。単語も文法も理解しないで英文を丸暗記することは大人の脳にとって負担が非常に大きい。大人は、丸暗記の能力が高い子どものようには言語は習得できないことを覚えておきたい。

大人の脳は丸暗記が苦手なことが脳科学研究で指摘されているのだ。子どもの頃の脳は丸暗記の能力である「意味記憶」が発達している。その能力は歳とともに低下していくが、大人の脳はものごとをよく理解してその理屈を覚える「エピソード記憶」が発達する。大人と子どもの脳の性質は異なるのだ。

5.3. 自分で使える定型表現が多く含まれた英語素材を使用すること

聞き流しを通して定型表現を覚えたいのであれば、当然だが、自分で使えそうな表現が多く含まれた英語素材を使用すべきだ。

ビジネスパーソンの方であれば、電話やミーティング、プレゼンや交渉などのビジネスシーンの英語のスクリプトと音源を使用し、まずは単語と文法と内容を理解してから繰り返し聞き流すことをお勧めする。

6. 英語聞き流しの効果④ オススメは単語を覚えるための聞き流し

アルファベットのABC

市販の単語集の中には、英単語の後に日本語の訳語と例文が録音されている音源がついているものが多い。単語を覚える際、その音源を「聞き流し」て覚えることをお勧めする。理由は5つある。

6.1. 聞き流しで単語集を見ないで効率的に単語を覚えられる

理由-01

一つ目の理由は、英単語と日本語訳が録音されていると単語集を見なくても聞くだけで単語の意味を覚えられることだ。満員電車や歩きながらでも単語が覚えられる。

6.2. 聞き流しで単語の発音とアクセントを習得できる

理由-02

二つ目の理由は、発音が同時に覚えられること。英語の単語は、特にアクセントの位置を間違って発音するとネイティブに通じないことが多い。音声を聞き流して単語を覚えることは使える英語にも直結するのだ。

6.3. 聞き流しでコロケーションも効率的に覚えられる

理由-03

三つ目の理由は、覚える単語が含まれた例文を繰り返し聞き流すことでその単語の使われ方や「コロケーション」(collocation)も同時に覚えられること。例えば「強い雨」は「heavy rain」で「strong rain」とは言わない。コロケーションとはこのような語と語のつながりの知識のことだ。

人間の脳は、そのシナプスの性質から、ものごとをお互いに関連づければ覚えやすくなるそうだ。単語を例文で覚えることは科学的視点からも効率的だということ。ただし例文をよく理解してから繰り返し聞き流そう。

6.4. 聞き流しでイントネーションやリズムも覚えられる

理由-04

四つ目の理由は、例文を音声で聞き流していれば文全体のイントネーションやリズム、音声変化も同時に覚えられることだ。

イントネーテョンやリズムのことを言語学では「プロソディ」(Prosody)というが、母音や子音などの個々の発音よりもプロソディの方が重要だと主張する言語学者は多い。プロソディを先に学習したグループと個々の発音を先に学習したグループとを比較した実験では、前者のグループの方がネイティブにとって聞き取りやすかったという実験結果も発表されている。

しつこいが例文は聞き流す前によく理解しておくことを忘れないでほしい。

6.5. 「目」で覚えるより「耳」で覚えた方が効率的

理由-05

五つ目の理由は、見るよりも聞いた方が記憶に定着しやすいということ。人間は進化の過程で、目よりも耳を活用して生き延びてきたということもあり、目よりも耳の記憶の方が心に残りやすいということが脳科学研究から指摘されているのだ。

例えば、電話番号などの意味のない数字の並びを短期的に覚える際、声を出したほうが覚えやすいはずだ。

7. 英語聞き流し|第二言語習得研究が教える聞き流しの注意点4つ

電球

ここまで、適切な英語素材を使用し、適切な方法で繰り返し行えば「聞き流し」でもある程度の効果が期待できることをご説明してきた。しかし、当然のことだが「聞き流し」よりも集中して聞いた方が高い効果が期待できる。また、聞き流しだけでは英語は習得できないことも事実だ。

英語を効率的に習得するという観点から、第二言語習得研究で指摘されている「聞き流し」に関する注意点を4つご紹介する。

7.1. インプット素材は「関連性」と「真正性」が重要?

注意点-01

第二言語習得研究で指摘されているインプット素材の条件を2つ紹介する。それは「関連性」と「真正性」だ。つまり、インプット用の素材は、あなたが「興味」があるもの、かつ「本物」の英語でなければならない。

7.1.1. インプット素材は「興味があるもの」を選ぼう!

英語の学習はつまらない。つならないから続かない。であれば興味のある題材を選ぼう。興味のある題材を使用すれば学習の効率性も向上するという研究結果も発表されている。

自分が「面白い」と思って読んだものは、可もなく不可もなくというものに比べて、内容の定着率が1.15倍に上がったという研究結果が早稲田大学名誉教授の ジェームス M バーダマン(James M. Vardaman)によって発表されているのだ。

また、脳科学の分野では、θ波がシナプスの活動を活性化することをスウェーデンの神経生理学者が発見している。これは脳内にθ波を発生させれば記憶力が向上するということを意味する。θ波を発生させるもっとも効果的な方法は、覚えたいものに興味を持つことだ。「好奇心」と「探究心」が記憶にとって最も重要だと指摘するのは東京大学大学院神経生理学准教授の池谷氏だ。

7.1.2. インプット素材は「本物」を選ぼう!

日本の英語教材で習った英語が実際には全く使えないということはよくある。そのような使えない英語ではなく、使える「本物」の英語を含んだ素材を選ぼう。

例えば筆者は中学時代、「座ってください。」は「Please sit down.」と習った。しかし、実はこの表現は非常に失礼な言い方だ。「うろうろしていないで座っていろ!」のニュアンスがあり、学校の先生がうるさく騒いでいる生徒たちには使える表現だが、会社のお客様には到底使えない表現なのだ。「Please have a seat.」が正しい。

「Sit down」よりも「Have a seat」の方が応用範囲は広い。あまり使えない「Sit down」だけを覚えるのはあまりにも非効率である。

7.2. インプットは「聞く」だけではなく「読む」ことも忘れずに!

注意点-02

英語を習得するには大量な「理解可能な」インプットが必要だということを否定する言語学者はいない。「インプット」とは「文字を読む」ことと「音声を聞く」ことだ。聞き流しによる「音声」だけに集中するのではなく、「文字」を大量に読むことも忘れないで欲しい。

第二言語習得研究を専門としている東北学院大学の村野井教授は、「インプットを取り入れる際には、文字インプットと音声インプットをバランスよく十分に取り入れる必要がある。」と指摘している。米ピッツバーグ大学の白井教授は、「聞き取りの方が、文法処理がおろそかになる傾向がある」ので、「音声におるインプットだけでなく、文字によるインプットも重要」と指摘している。

文字によるインプットを増やすには多くの本を読む「多読」がお勧めだ。多読についての詳細は、「英語多読の効果|第二言語習得研究も認めた効果とおすすめ多読法!」が参考になるはずだ。

7.3. 聞き流しで定型表現を覚えるだけでは英語は習得できない!

注意点-03

聞き流しで定型表現を覚えることは英語を習得する上で有効なことは既にご説明した。しかし、定型表現を覚えるだけでは英語は習得できない。

英語を習得したといえるための条件の一つは、「自分の言いたいことを自由に表現できる」ことだ。その条件をクリアするためには一体いくつの定型表現を覚えればよいのだろか?100?1,000?10,000?そもそも10,000の定型表現を覚えることは不可能だ。たとえ10,000の定型表現を覚えることができたとしても、それでも自分の言いたいことを自由に表現できる英語力は獲得できない。

トップダウンとボトムアップ学習

自分の言いたいことを自由に表現できるようになるには、単語・文法・発音の3つを組み合わせて無限の文章を作れるようにすることが必須なのだ。定型表現を覚えることはあくまで補足の学習だと思って頂きたい。The English Clubでは、前者の学習方法を「ボトムアップ学習」、後者を「トップダウン学習」と呼んでいる。

トップダウン学習と並行してボトムアップ学習を行うことが最も効率的に英語を習得する学習方法なのだ。学習方法については「英語勉強の順番|社会人の初心者は3つの基本言語要素から始めよう!」が参考になるだろう。

7.4. 「聞き流す」だけでは「ペラペラ」にはならない!

注意点-04

インプットを大量に取り入れるだけでは英語は習得できない。「聞く・読む」だけを繰り返しても「話す・書く」ことをできるようにはならないからだ。流暢に話せるようになるためには、「話す・書く」アウトプットの練習も必要だというのが最新の第二言語習得研究における主流の考えだ。つまり「聞き流す」だけでは「ペラペラ」にはならない。

7.4.1. TOEIC高得点でも話せないから仕事で使えない

TOEIC(LR)で800点や900点取っても話せないから仕事で使えないという人は多い。そのような方達のことを、The English Clubでは「TOEIC難民」と呼んでいる。

TOEIC(LR)は「読む・聞く」インプットの能力のみを測定するテストだ。TOEICの点数を上げることだけを目標として、「読む・聞く」ことだけに集中していると話すことはできなくなる。「TOEIC難民」になるのは当然の帰結だ。

7.4.2. 「聞くこと」と「話すこと」は別の能力

聞いて理解できることと、言いたいことを話すことは全く別の能力だ。特に文法処理に大きな違い出ることが指摘されている。つまり、聞く場合は、文法をあまり気にしなくても重要な単語が聞き取れれば大意は取れる。しかし、話す場合は、単語の並べ方、つまり文法をより意識せざるを得なくなるのだ。

また、単語には「認識語彙」と「運用語彙」という区分がある。前者は「理解できる単語」で、後者は「使える単語」という意味だ。話すためには「運用語彙」を増やす必要があるが、インプットだけでは運用語彙を効率的には増やせないのだ。

話すためのトレーニング方法については「英語スピーキング|話せない方必読!リハーサルの重要性と注意点5つ」を参考にしてほしい。

8. 英語聞き流し|第二言語習得研究が提案する効果の高い聞き流しとは!

リサーチする人

2つの聞き流し方法をご紹介しよう。まずは、① 最も効果の高い「自動化」を主な目的とした聞き流しの方法、そして②「市販の聞き流し教材」を使った聞き流しの方法だ。

8.1. 「自動化」を主な目的とした「聞き流し」の方法

「自動化」が目的の場合、つまり、知識を使えるようにすることを目的とした場合は、聞き流しに使用する英語素材は「i」もしくは「i+1」の素材が原則だ。つまり、全て理解できる英語、もしくは知らない単語や文法項目が2〜3%含まれている英語である。自動化のためにはかなり優しい素材を使うことが鉄則だ。

なぜなら、知らない単語や文法項目がたくさんあると、どうしても理解することに意識がいってしまうからだ。それだと自動化にはつながらない。

一方で、どうしても「i+1」よりも難しい素材を使いたい場合は、聞き流す前に「i+1」の状態にしておけばいい。ここでは「i+1」よりも若干難しい英語素材を使う場合の聞き流しの方法をご紹介する。

聞き流しのトレーニング・フロー

上の図のように、聞き流す前に6種類のトレーニングを行うことをお薦めする。単語と文法、そして発音を十分に理解することが目的だ。順番にやり方をご説明する。

8.1.1. リスニング(Listening)

トレーニング・ステップ-01

まずはひと通り音声を聞いてみよう。英文(スクリプト)は見ない。どれくらい聞き取れるかを確認する。この時点で全く理解できなかったり、時折り単語が聞き取れる程度であれば、その素材はあなたには難しすぎる。もっとやさしい英語素材にしよう。

一回聴いて完璧に理解できない場合は何度か繰り返し聞いてみよう。この時点で100%理解できれば、アイシャドーイングなどは飛ばして、シャドーイングに進もう。

8.1.2. アイシャドーイング(Eye-shadowing)

トレーニング・ステップ-02

今度は音声を聞きながらスクリプトを目で追ってみよう。聞き取れなかったところや意味が理解できなかったところに印をつけておくと後で役に立つ。

聞き取れなかったところは聞き取れなかった理由を考えながら、意味ができないところは意味を想像しながら何度か繰り返そう。

8.1.3. 音読確認(Reading aloud)

トレーニング・ステップ-03

音声を止めて自力で声を出しながら読みつつ意味を確認しよう。知らない単語は辞書で調べること。文の構造がわからない場合は文法書などで調べること。

全部理解できたら再度、意味(内容)を意識しながら最初から音読してみよう。音読しながら意味がスーッと頭に入ってくるようになるまで繰り返すこと。

なお、音読の効果とやり方についての詳細は「英語の音読|正しいやり方で4技能に効果あり!7つのコツと教材選び」を参考にして欲しい。

8.1.4. オーバーラッピング(Overlapping)

トレーニング・ステップ-04

今度は音声を聞きながら声を出してスクリプトを読んでみよう。スピードに遅れないようにぴったりとついていこう。そして、発音をそっくりまねて、意味(内容)を意識しながら繰り返しやってみよう。

発音方法があいまいな場合は口パク(リップシンク(Lip-sync))で確認してから再度オーバーラッピングをやってみよう。人間の脳はマルチタスクが苦手なので、発音と意味を両方意識しながらオーバーラッピングすることはできない。発音を意識するときと意味を意識するときと分けてやってみよう。

8.1.5. シャドーイング(Shadowing)

トレーニング・ステップ-05

シャドーイングに挑戦だ。スクリプトを見ずに音声を聞いて、その音声に自分の声が影(shadow)になるようについていく。音声の後を1〜2語遅れてついていこう。

うまくできなければ音読やオーバーラッピングに戻って何回か練習してから再度シャドーイングに挑戦しよう。発音を意識するときと意味を意識するときと分けて繰り返し練習しよう。

なお、シャドーイングの効果とやり方についての詳細は「英語のシャドーイング|4種類のやり方と効果&6のコツを徹底解説!」を参考にして欲しい。

8.1.6. 書き写し(Transcribing)

トレーニング・ステップ-06

自分でも使えそうな表現や言い回しがあったらノートに書き写してみよう。書き写す際は1文全部を覚えてから一気に書き写すようにする。音読した方が覚えやすいだろう。英文をチラチラと見ないようにすること。

自分で使える表現を増やために、使えそうな表現や好きな表現、言い回しをまとめておくノートを一冊用意することをお薦めする。

8.1.7. 聞き流し(Half-listening)

トレーニング・ステップ-07

聞き流しの準備はできた。何度も何度も暗唱できるようになるくらいまで繰り返し聞き流そう。時折シャドーイングや音読を入れるとより高い効果が得られる。

8.2. 「市販の聞き流し教材」を使った「聞き流し」の方法

市販されている聞き流しの教材は、よく使われる英語表現とその日本語訳が交互に収録されている。それを聞き流すことによって定型表現を丸暗記する教材だ。

日本語訳が英文の後に収録されているので辞書は必要なく、聞き流すだけでよいというのが売りの教材だが、その方法は決して効率的な英語の習得方法ではない。大人の脳は丸暗記が苦手だからだ。

しかし、物は使いようである。ここでは、この市販の聞き流し教材を使った効果を出すための聞き流しの方法をご紹介する。ただし、これはあくまで定型表現を効率的に覚えるためだけの方法であることを忘れないでほしい。

聞き流しのトレーニング・フロー

それぞれのトレーニングのやり方は、上記「8.1」を参考にしてほしい。

重要なことは単語と文法と発音を意識すること。つまり、「文字」と「音」と「意味」をつなげることだ。知らない単語や文法項目があれば、必ず辞書や文法書で調べて理解してから聞き流すこと。単語や文法を理解することなしに英語は習得できない。

9. 英語聞き流し|聞き流しにおすすめの教材はこれだ!

上記でご説明した自動化を主な目的とした聞き流しのためのお薦め教材をご紹介しよう。必ず自分の英語レベルに適したものを選択してほしい。

英会話・ぜったい音読 入門編[講談社]¥1,300+税
英会話ぜったい音読入門編

TOEIC470点以下の方を対象とした音読教材の定番だが、初級者の聞き流し用にも適している。CD付属。シリーズに「標準編」と「挑戦編」がある。中学・高校の英語のテキストを使用しているため内容的に面白みがないのが欠点。英語の基礎を固めるためだと割り切ろう。

Pearson Graded Readers[Pearson Education]¥1,000円前後
ピアソン・グレイデット・リーディング

旧ペンギンリーダーズ。多読用の書籍。英検4級(TOEIC250)レベルから準1級(TOEIC730)レベルまで、レベル別に様々なタイトルが出版されている。音源が付属されているタイトルも多い。大量のインプットを実現するにはうってつけの英語素材だ。このピアソン以外にも、オックスフォードケンブリッジからも同様の多読本が出版されている。

TED Talks
TED Talks

知識人、著名人や様々な分野のリーダー達の世界を変え得るアイデアを発信することが目的の非営利のサイト。画像、音声、スクリプト、日本語訳をダウンロードできる。平易な口語英語で行われているものも多いが、多読・多聴、聞き流し用には上級者向け。

10. 英語聞き流し|まとめ

祝福
  • 内容が全く理解できなければ、CNNなどの英語ニュースを聞き流していてもいつまでたっても聞き取れるようにはならない。聞き流す教材も、単語と文法を理解できなければ時間の無駄。聞き流すことでフレーズを丸暗記できたとしても、それは英語を習得したことにはならない。
  • しかし、聞き流すこと自体全く意味がないわけではない。適切な素材を使用し、適切な方法で繰り返し行えば、聞き流しでも限定的ではあるが効果は期待できる。
  • 適切な方法で行えば聞き流すことで単語・文法・発音の知識を無意識的に使えるようにする「自動化」が可能だ。リスニング力の向上や定型表現を覚えることにもつなげられる。特に単語を覚えるには聞き流しをお薦めする。
  • しかし、当然のことだが「聞き流し」よりも集中して聞いた方が高い効果が期待できる。また、聞き流しだけでは英語は習得できないことも事実だ。
  • 第二言語習得研究の知見をベースとした効率的な聞き流しは、「i+1」の英語素材を使用し、「聞く」→「アイシャドーイング」→「音読確認」→「オーバーラッピング」→「シャドーイング」→「書き写し」→「聞き流し」の順番で行うことだ。
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執筆者プロフィール
小柳 恒一
  • 1999年ロンドン大学大学院ロンドン・ビジネス・スクールにてMBA取得。1997年TOEFL630点取得。2003年TOEIC990点取得。2004年米国公認会計士試験合格。2010年4月中小企業診断士登録。
  • 2000年よりリーマン・ブラザーズ等にて13年以上M&Aのアドバイザリー業務に携わる。
  • 2010年より中堅・中小企業を対象とした事業継承M&Aコンサルティング事業を開始。
  • 2013年よりThe English Clubの前身となるEnglish Tutors Network事業を開始。
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